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京都地方裁判所 昭和61年(わ)448号 判決

本籍

京都府宇治市折居台一丁目四番地の一六八

住所

京都市伏見区向島二ノ丸町一五一番地の五八 市営住宅

一街区六棟六一三号

社会保険労務士

大伴直裕

昭和三年一一月二二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官肱岡勇夫出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金一二〇〇万円に処する。

未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大伴直裕は、全国同和対策促進協議会中央本部本部長大石忠勝、北村吉也らと共謀の上、右北村がその所有する京都府宇治市五ヶ庄西田二九番地ほか一〇筆の雑種地を昭和五八年九月一九日に八億四、九九一万六、五〇〇円で売却譲渡したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右北村の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は六億一、〇九五万四、七五九円、総合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額は一〇〇万一、七〇九円で、これに対する所得税額は二億一、五四八万一、〇〇〇円であるにもかかわらず、全国同和対策促進協議会中央本部(本部長大石忠勝)に四億二、〇〇〇万円で売却譲渡したと仮装した虚偽の売買契約書(この契約書では更に二筆の土地を付加)を作成し、更に同本部に対し売却に要した費用として造成費一億二、〇〇〇万円を支払った旨仮装するなどした上、同五九年三月一三日、京都市下京区間之町五条下る大津町八番地所在所轄下京税務署において、同署長に対し、右北村の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億八、五八六万二、〇六三円、総合課税の総所得金額は一、七〇九円で、これに対する所得税額は五、五六九万六、五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額二億一、五四八万一、〇〇〇円との差額一億五、九七八万四、五〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書八通

一  北村吉也(一〇通)、大石忠勝(七通)、奥村善弘(五通)、李興斉(二通)、森本清治(一通)、大伴直喜(二通)、木村博(一通)、大倉瑛子(一通)、梅本光生(一通)及び澤田敏夫(一通)の検察官に対する各供述調書謄本

一  大阪国税局収税官吏大蔵事務官江上明作成の脱税額計算書の謄本

一  大蔵事務官平木正行作成の証明書の謄本

一  北村吉也作成の58年分の所得税の修正申告書写

(法令の適用)

判示所為

刑法六五条、六〇条、所得税法二三八条一項

刑種の選択

懲役刑と罰金刑を併科(罰金刑につき所得税法二三八条二項適用)

宣告刑

懲役一年二月及び罰金一二〇〇万円

未決勾留日数の算入

刑法二一条(三〇日を懲役刑に算入)

労役場留置

刑法一八条(金三万円を一日に換算した期間)

執行猶予

懲役刑につき刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、北村吉也、全国同和対策促進協議会中央本部長大石忠勝らと共謀の上、右組織を利用し、仮装売買により土地の譲渡金額を低く押さえ、架空の造成費を計上するなどの方法により、北村の所得税一億五、九七八万四、五〇〇円を免れさせた事案であり、その脱税金額自体巨額であり、ほ脱率も高率で、納税の公平を失わせ、誠実な納税者の納税意欲を阻害した程度は著しく、それ自体重大な犯罪である上、被告人は社会保険労務士という立場もわきまえず、北村と大石との間の仲介をし、税額計算等も自ら行うなど本件において積極的な役割を果たし、その謝礼として合計一八〇〇万円という多額の金員を利得しているのであって、悪質な事犯というべく、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら、他方、被告人は本件について反省の態度を当公判廷で示していること、北村との間で金員返還の話し合いを進め、相応の金額を支払うつもりであると述べていること、被告人にはこれまで前科がなく、社会保険労務士等として比較的健全な社会生活を送ってきたこと、本件により初めて三箇月弱の間身柄を拘束され、家庭においても本件のため離婚するに至っていること等被告人に有利又は同情すべき事情も認められ、これらの事情も考慮すると、懲役刑については今回に限りその執行を猶予するのが相当であり、罰金刑については本件の脱税金額や被告人の利得額等前記の各事情からすると主文掲記程度の金額は免れないものと考えられ、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 安井久治)

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